​​自然資本の危機に
どう備える?​
保険会社が挑む、
リスクパートナー
としての新たなカタチ

水不足で工場が止まり、森林破壊や土壌の変化で原材料が手に入らなくなる――。
自然の変化は、企業の売上やコストを左右する、重大な経営リスクでもある。

この見えにくいリスクを、オックスフォード大学の研究成果を活用して測り、日本企業の行動につなげようとするプロジェクトがある。
英国に駐在して企画・開発を進める池上と、日本で企業への提案・導入を担う山浦。保険の枠を超えて企業の未来を支える、2人の仕事を追った。

  • Chapter 01

    自然が企業経営に与える
    インパクトとは

    企業は、水、土壌、森林、生物資源など、多くの「自然資本」に支えられている。ところが、自社の事業や調達先がどんな自然に依存し、どこに危機が潜んでいるのかを把握することは難しい。自然資本領域の事業を模索していた池上たちは、オックスフォード大学の研究者との対話から、企業と自然のリスクを「健康診断」のように測る着想を得る。こうして、ソフトウェア開発が動き出した。

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    自然が企業経営に与えるインパクトとは
    Chapter 02

    自然の分析技術と保険の知見を
    掛け合わせ、
    自然リスクを可視化

    Natcap社の研究に保険会社の知見をプラスしたソフトウェアが誕生。自然関連リスク分析とサプライチェーンの可視化で、見えづらい調達網の危機を炙り出す。個別コンサルの限界を超え、より多くの企業を支えるべく、日本でも提案を始めた。

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    世界の知見を束ね、企業にとっての自然リスクを可視化
    Chapter 03

    リスクを可視化した先、
    企業を支える伴走支援

    良いソフトウェアができても、企業へ届き、使われなければ経営は変わらない。日本市場を担当する山浦は、社内営業への勉強会から始め、提案先の課題を読み込み、一社ごとに説明を組み立てる。池上が語る開発最大の難所「社会実装」――周囲を巻き込む戦いが続いていた。

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    リスクを可視化した先、企業を支える伴走支援
    Chapter 04

    保険会社の枠を超えた
    リスクパートナーへ。
    企業と自然が共生する
    未来をつくる

    オックスフォード大学の知見と、保険会社が持つ企業との接点を結び、企業の次の一手を導く本ソフト。保険の枠を超えた「リスクパートナー」として一社一社へ届け、“ネイチャーポジティブ経営”を支える。強みである顧客接点を活かし、日本を自然資本対応の先進国へ導く未来を描く。

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    保険会社の枠を超えたリスクパートナーへ。企業と自然が共生する未来をつくる

Introduction

企業と自然との関係を分析。経営上のリスクを「見える化」する

​​2020年、あいおいニッセイ同和損保(以下AD社)はオックスフォード大学発のAI企業「Mind Foundry」と協業を開始。2022年には英国に研究開発拠点「Aioi R&D Lab - Oxford」を設立し、AIや自動運転、サプライチェーンなど、保険の枠を超えた研究に取り組んできた。

そのひとつが「自然資本」だ。水や大気、土壌、森林、生物資源など、人の暮らしや企業活動を支える自然を資本として捉える考え方である。​​​工場で大量の水を使う企業には水不足が操業リスクとなり、農産物や木材を調達する企業には土壌の劣化や森林破壊が、原材料不足や価格上昇を招く。​自然環境の変化は、企業の業績や評価にも影響する問題なのだ。

​​この領域でAD社が連携したのが、オックスフォード大学の研究者らが設立した「Natural Capital Research Limited」(以下、Natcap社)である。同社の研究・技術と、企業のリスクに向き合ってきた保険会社の知見、多くの企業との接点を組み合わせ、企業の拠点や調達先と自然との関係を分析し、リスクを可視化するソフトウェアの開発・販売を進めている。

自然資本や生物多様性の研究を企業ごとのリスク診断に落とし込み、その結果をもとに、日本では企業に対し、調査すべき拠点や調達先の特定、対策の優先順位づけまでを支援する。研究成果を企業が使える仕組みに変え、自然リスクに備える具体的な行動へつなげていくプロジェクトである。

企業と自然との関係を分析。経営上のリスクを「見える化」する

Member

  • 池上 淳一
    AIOI R&D LAB LIMITED CEO

    池上 淳一

    コンサルティング業界、米国MBAを経て、2015年入社。英国在住10年。研究所の立ち上げ、戦略立案、パートナー企業との提携など通じて、ユニークかつ最先端の研究所づくりに取り組んでいる 。

  • 山浦 五月
    あいおいニッセイ同和損保
    未来戦略創造部
    R&D Lab-Tokyoグループ

    山浦 五月

    AD社に入社し、一度は映像業界に転身。その後、2010年に再び入社。日本市場でソフトウェアの販売・提案を担当。営業部門と英国側をつなぎ、企業へのサービス導入を推進する。

Chapter 1

自然が企業経営に与える
インパクトとは

  • 企業は、自然に影響を与えるだけでなく、自然に支えられてもいる。水が安定して使えること、土壌が作物を育てられること、森林や生態系から原材料を得られること。その大本となる水、大気、土壌、森林、生物など、社会や経済を支える自然を「自然資本」と呼ぶ。普段は意識されにくいが、製品やサービスを生み出す、すべての企業活動の土台になっているのだ。

    その土台が崩れれば、影響は大きい。たとえば、水質の悪化で規制が強化されれば、工場で使える水が制限され、生産量が落ちるかもしれない。原材料の産地で生態系が損なわれれば、調達先の変更や価格上昇につながる可能性もある。環境に関するルールが厳しくなったときに対応が遅れれば、追加の費用が掛かり、投資家や取引先からの評価にも影響する。自然の変化は、企業にとって重大な経営課題だ。

    自然が企業経営に与えるインパクトとは
  • しかし、自然と企業活動との関係は複雑だ。企業活動は、原材料を仕入れ、製品をつくり、運び、販売するまでの、国境を越えた多くの取引先とのつながり、つまりサプライチェーンで成り立っている。自社だけではなく、関連する企業を通じて、どこにリスクがあるのかを企業自身が把握することはとても難しい。

    池上たちは、オックスフォード大学で自然資本の研究をするキャシー・ウィリス教授に助言を求めた。対話から生まれたのが、企業活動と自然との関わりを分析し、どこにどのような自然関連リスクがあるのかを可視化する「健康診断」の構想だった。人間の健康診断になぞらえ、企業が自らの状態を把握するための診断ツールをつくろうと考えたのだ。同教授が共同創業したNatcap社がプロジェクトのパートナーとなって、企業の自然リスクを測定するためのソフトウェアをつくることになった。

  • 池上 淳一
    池上 淳一

    「自然に関する分野はMS&ADとしてさらに強くしたい、それもオックスフォードのテクノロジーを使ってやりたいと考えていました。ただ、具体的に何をやるのかは、なかなか定まりませんでした。教授に相談する中で、自然は複雑で、企業はまず自分たちの状態をどう測ればよいのかわからない。そこで、人間の健康診断のように、その状態を測れる診断ツールを提供したいと考え、もともとNatcap社が持っていたソリューションに、保険会社の知見を入れた機能を追加したらどうか、という話になりました。」

Chapter 2

自然の分析技術と保険の知見を
掛け合わせ、自然リスクを可視化

  • ソフトウェアの開発では、Natcap社の研究・技術と、保険会社として企業のリスクに向き合ってきた知識を組み合わせた。その中核が自然に関わる約2000種類のリスクを、ビジネスの文脈に沿って整理したデータベース「リスクライブラリー」だ。企業が工場や事務所の場所、業種、使用する原材料等を入力すると、科学的知見や国際的なフレームワーク、各種データをもとに、自社にどのようなリスクがあるのかを読み解ける形にした。このソフトウェアを使うことで、自然の問題を、自社の環境対策部門だけの課題ではなく、財務や企業価値そのものに関わる経営課題として捉え直せるのだ。

    世界の知見を束ね、企業にとっての自然リスクを可視化
  • さらに、自社の工場や事業所だけでなく、サプライチェーンまで分析できる。原材料がどこで生産され、どのような自然環境に依存しているのか。企業単独では追い切れなかった仕入れ先のつながりの奥まで視野を広げ、優先して詳しく調べるべき場所を絞り込める。

    自然リスクの診断を個別のコンサルティングだけで行うには、支援できる企業数に限界がある。企業が自ら利用できるソフトウェアとして提供することで、同じ知見をより多くの企業に届けられる。専門家の知識をより多くの企業に活用してもらい、より大きな課題解決へつなげるための選択だった。

    2025年2月、両社は資本業務提携により連携をさらに強化。日本では企業への提案・導入を進める段階に入ったが、ソフトウェアのアップデートは引き続き行われている。

  • 池上 淳一
    池上 淳一

    「自然リスクのコンサルタントは、たくさんいます。しかし、私たちがやろうとしているのは、できるだけ広く使ってもらうことです。コンサルティングに頼っている限り、コンサルタントの人数がボトルネックになります。ですから、ソフトウェアとして提供する意味があるのです。」

Chapter 3

リスクを可視化した先、
企業を支える伴走支援

  • 研究や技術を、実際に企業で使える状態にすることを「社会実装」という。リスクを見える形にしても、その診断結果が企業の実際の行動へつながらなければ、経営は変わらない。日本市場での販売を担当する山浦五月の仕事は、完成した仕組みを単に売ることではなく、それぞれの企業が抱える課題を見極め、どこから取り組むのか考える入口を造ることだ。

    リスクを可視化した先、企業を支える伴走支援
  • 保険営業が普段接点を持つのは、企業の総務部や保険担当部門が中心だ。一方、自然資本について話したい相手は、環境問題や社会問題を担当するサステナビリティ部門や、会社全体の戦略を考える経営企画部門。まずは自社内の営業担当者にプロジェクトを理解してもらい、適切な部署へつないでもらわねばならない。山浦は、営業部門向けの勉強会を個別に開き、少しずつ理解してもらいながら提案先を探す。提案先が見つかれば、英国側の担当者とともにオンラインで企業へ説明する。時差があるため、面談は午後4時以降に始まることも多い。

    企業側の状況もさまざまだ。日本では一律に対応が求められている状況ではないため、取り組み状況には差がある。そこで山浦は、面談前に各社のサステナビリティレポートを徹底して読み込み、相手の課題に応じて提案内容を変える。

  • 池上 淳一
    池上 淳一

    「全体の労力を100とすると、アイデアを考えるのが40、開発自体は10くらい。残りは、周囲を巻き込みながら、開発したものを実際に使ってもらうこと。社会に実装することこそ、一番苦労する点ですね。」

  • 「提案相手の企業によって『刺さる』ところが違います。規制に備えたい企業もあれば、今取り組んでいることが正しいのか確かめたい企業もあります。毎回、情報を整理して、相手企業に合わせた提案を心がけています。」

    山浦 五月
    山浦 五月

Chapter 4

保険会社の枠を超えた
リスクパートナーへ。
企業と自然が共生する
未来をつくる

  • 自然関連リスクが見えるようになれば、企業は具体的な「次の一手」を打てる。どの拠点を優先して調査するのか、どの調達先と環境改善に取り組むのか、自然との関係を、事業や投資の判断にどう組み込むのか。診断は、問題を指摘して終わるものではない。企業が判断し、行動を変えるための出発点になる。

    池上は、保険金を支払うだけでなく、事故や損失につながる危険を見つけ、被害を防ぎ、さらに新しい技術が実際に使われるところまで企業とともに考える役割を「リスクパートナー」と表現する。事故や損失が起きる前から企業と向き合い、将来、どのように事業を進めるかという判断を支える。自然関連リスクの診断は、損害保険会社が事故や損失に向き合ってきた知識を、企業と社会の変化へ広げる取り組みでもある。

    保険会社の枠を超えたリスクパートナーへ。企業と自然が共生する未来をつくる

    池上は、保険金を支払うだけでなく、事故や損失につながる危険を見つけ、被害を防ぎ、さらに新しい技術が実際に使われるところまで企業とともに考える役割を「リスクパートナー」と表現する。事故や損失が起きる前から企業と向き合い、将来、どのように事業を進めるかという判断を支える。自然関連リスクの診断は、損害保険会社が事故や損失に向き合ってきた知識を、企業と社会の変化へ広げる取り組みでもある。

  • 自然関連リスク診断も、その考えを形にした取り組みのひとつだ。自然を巡る問題は、一企業だけでは解決できない。原材料をつくる企業、製品をつくる企業、運ぶ企業、売る企業。サプライチェーンには多くの企業が関わり、水や森林、生態系も企業の境界線で区切られてはいない。だからこそ、MS&ADグループが持つ多くの企業との接点が生きる。英国オックスフォードの研究・技術を日本企業の経営へ届け、行動する企業を一社ずつ増やす。一社の変化が取引先へ、サプライチェーンへ、そして社会全体へ広がっていく。ソフトウェアを1社1社に届け、“ネイチャーポジティブ経営”へと動き出す企業を増やしていくことが、このプロジェクトの目指す「社会実装」なのだ。

    開発されたソフトウェアは、その入口にすぎない。目指しているのは、企業が自然との関係を経営課題として捉え、見えなかったリスクに備え、行動を変えていくこと。保険会社の枠を越え、企業と自然が共生する未来を支える。それが、このプロジェクトの先にある。

    保険会社の枠を超えたリスクパートナーへ。企業と自然が共生する未来をつくる

    開発されたソフトウェアは、その入口にすぎない。目指しているのは、企業が自然との関係を経営課題として捉え、見えなかったリスクに備え、行動を変えていくこと。保険会社の枠を越え、企業と自然が共生する未来を支える。それが、このプロジェクトの先にある。

  • 池上 淳一
    池上 淳一

    「自然の問題は、1社で何とかできるものではありません。ただ、良い技術と、保険会社が持つ多くのお客さまとの接点を結びつければ、少しずつ行動する企業を増やしていけます。最終的には、日本は自然と共生するビジネスが進んでいるね、と言ってもらえるような国になるかもしれませんね。」

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